言えない恋



でも綾さんは次がない


いや、次はあるけど

それは綾さんには決められた道となって始まる



だからいつまでも引きずるんじゃないかって


壮介のことをいつまでも想い続けて、それを隠し続けるんじゃないかって…





そう思った私は




みんな嘘だらけで嫌になったんだ







部屋を飛び出して、その階のエレベーターの前でしゃがみ込む私



このまま壮介とは会わない


もう戻らない



そんな気持ちとはうらはらに大量の涙が顔を濡らす




私…言えてない…




部屋を出る時、言えばよかった


あんな勢い出しといて、なんで言えなかったの…


なんで…


"別れよう"の一言が言えなかったのよ…―






…………無言の別れ。



最低だな、私…



でももう会わないよ




視線を壮介の部屋の玄関に向ける




まだあそこには壮介がいる…



その愛しさに、力が入る



私は立ち上がり、濡れた顔を袖で拭き取った




「ありがとね…壮介…



ばいばい…―」




目の前のエレベーターのボタンを押し、中に乗り込んだ

冷たい風と共にエレベーターの扉は閉まった




……ダンッ!!!


「…‥?!」



閉まった扉が下に動きだした時、外の窓に移る姿



「…‥っっ‥」



下がっていくエレベーターの中で私は崩れおち泣いた


一瞬見えたその姿が嬉しくて…


下がりだした扉は開くはずもなく、それでも扉を強く叩く



「…………壮介ぇ‥っ」




一気に下がっていくエレベーター


止めることもなく



私はただただ泣いた。



一瞬でも見えた壮介の必死な顔




もう少し早く来てよ…―






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