ヴァンパイアに、死の花束を
先生はそれだけ言うと、背を向けて鳥居に向かって歩き出した。

シオが封印を解いた扉の中にわたしを押し込むように先に入れた。

わたしは小さくなっていく先生の後ろ姿に向かって声を振り絞った。

「…先生…陣野先生……!!嫌だ、行ってしまわないでよ!!このままじゃ、先生を憎むしかないじゃない!!違うって言ってよ……あれは自分じゃないって―――!!!」

……お願い、先生を…愛していた人を…これ以上、憎みたく…ないの―――!!

その時、先生は、一瞬だけ振り向いた。

何かを言ったけど、わたしには聞きとれなかった。

先生はそのまま雨に濡れた鳥居の中に消えていった。

「……せ…んせい…」

「神音様、火月様の命に従い、火月様がお戻りになるまではここから出ることは叶わないとお思いください」

ギギ…と閉められていく扉にわたしは手を伸ばした。

だけど、シオは何食わぬ顔でわたしの手を掴むと、扉から引き剥がした。

バタン…と大きな音を立てて閉じられた扉の内側で、わたしは先生を想って泣いた。

憎んでる心とは裏腹に、最後にわたしを振り返って何かを言った時の先生の顔が脳裏に焼き付いていた。

雨に紛れてはいたけれど。

あれは、確かに―――――――――。

「シオ…あなたは聴こえたんでしょう?先生は、最後になんと言ったの…?」

先生の瞳から―――――――。

「『私は、鬼だ』……そうおっしゃいました」

“鬼”が、涙を流していた―――――――。

「“鬼”が泣くなんて……変だね」

わたしの深紅の瞳に、シオは一瞬、息を飲んだ。

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