ラストライブ
*1
その日は、バーカウンターの中にも人が2、3人いるだけでいつもと違う所は全くなかった。

バーカウンターに置かれた誰かが飲み残したコーラの瓶が、フロアのライトを浴びて光っていた。

浅美は、ステージからやや離れた、しかし前方のテーブル席を陣取って座っていた。

ふと、次のバンドのその次のバンドが、お目当てのバンドであるという事に気付いた彼女は、ドリンクのコップを持ったまま席を離れた。

出入り口付近に歩き出した彼女は、見覚えのある人影に足を止めた。

開場時刻から大幅に遅れてやって来た友人の絵梨の姿だった。

「遅かったじゃないの。」と、浅美は今まで一人で心細かったのを忘れて言った。

悪びれる様子もなく、「バイトが長引いちゃってさ。」と笑顔で絵梨は答えた。

うさ耳のついたピンクのパーカーを着た絵梨に、浅美は腹立たしさを覚えた。

浅美は、黒いレースのついたスカートを翻した。
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