ラストライブ
化粧をするためのポーチを持って来ていたので、浅美はあわてることもなく鏡に向かい化粧直しを始めた。

何分、いや何秒が経ったのだろう。

その化粧室は、二人が入っているには狭すぎたので、すぐに里江の方から出て行った。

だがしかし、彼女は出て行く際にわざとらしく浅美の肩にぶつかり、靴を踏んでいったのである。

浅美は、嫌な気分がしたがそれと同時に、なぜだか胸をなでおろした。

トイレを出て手を洗いながら考えた。

そうか、もうあれから4ヶ月になるのか。

まだ短い時間しか経っていないのだな、と浅美は思った。

浅美が彼の家で鉢合わせして彼女に認識されてから、まだ4ヶ月しか経っていないのである。

そして、浅美と彼女の年の差は2歳ほどある。

この期間は、浅美にとっては長すぎるとしか言いようがなかった。

今から歌い出す憧れの彼と結婚したり、彼の子供を産んだりするのにさえ、世間から許されるのにまだ2年もかかるというのだ。

浅美は、いつも周りにいる同世代の、しかし大人のお姉さんたちを見ては羨ましがらずにはいられなかった。

早く大人になりたかった。

このライブハウスに来るようになってから、浅美のその想いは徐々に強くなっていた。
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