今日も、恋する電車。
ゴールに着いた途端、茜は前のめりに倒れこんだ。

いつも冷静に走るスタイルしか見ていない他の部員や、顧問は一瞬目をみはると慌てて、茜に駆け寄った。

「櫻井よくやった」

顧問は、茜の挑戦を褒め、茜を担いだ。
いつもは冷たい部員たちも、茜の奮闘ぶりを称えた。

「結局タイムは変わらずか」

茜は、顧問におんぶされながら、苦笑する。
タイムウォッチを設定した自分の時計をみると、いつものタイムとそう変わらなかった。

体の疲労もいつもに比べても、深く重たい。怪我した膝だってまだ痛む。乱れた呼吸もまだまだ、落ち着きそうにない。

それでも、茜は顧問の背中にもたれながら、ふふ、と笑う。

何も変わっていない。何かが変わったわけではない。けれども爽快感と、気持ちのいい疲労感に、茜は顔をほころばせた。

「いい走りだったな、櫻井」



< 30 / 35 >

この作品をシェア

pagetop