ことばのスケッチ
「匂いをかいでみて」
「匂わないよ」
「どうしたのかしら」
《あの動くものが来たら恐いんだよ!》
「少し篭を揺らしてみたら」
《そうそう、傍らにいてくれればいいんだ!》
「また眠ってしまったよ」
 そうなんだ、私が眠っている時でも傍らにいてくれればいいんだ。これで安心して眠れる。やっと私の気持ちがわかってくれたらしい。私が目を覚まして「オギャーオギャー」というと体が揺れて安心する。あまり仰向けになって眠っていたためか、なんだか体の置き場が無い。何とかしなければと、傍らにあったものを握って体を動かそうと思っても、体が思うように動かない。いらいらする気持ちが治まらない。このいらいらする気持ちを何とかして欲しいと「オギャーオギャー」と声を掛けてみた。
「あらあら、タオルが顔にかかっているわ」
「きっと、暑いんだよ」
《ちがうんだよ!体の置き場がないんだよ!早く何とかしてくれよ!》
と、大きな声で「オギャーオギャー」といったがことばが通じない。その歯痒さに、いらいらする気持が更に高ぶる。しようがないなと大きな声で「フフギャーフフギャー」と、その気持ちを本心からぶちまけた。
「おいおい、とうとう泣き出してしまったよ」
「はいはい、ごめんね」
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