ことばのスケッチ
(6)
この事件以来、私は厳しい監視のもとに置かれるようになった。必然的に二点支持から三点支持への移動の訓練が積み重なる。足腰が随分鍛えられた。動きが敏捷になるにつれて未確認物体が遠くなる。
私の視覚で捕らえられるものは、全て未確認物体である。この世で初めて体験するものばかりである。また、未確認物体の確認手段としては、母親の胎内の時代から備わっている本能から来る味覚と臭覚であって、いわゆる世間で言う動物的感覚という奴である。興味とか趣味が湧いて味覚と臭覚を使うのではない。何だろうと確認するために使うのである。したがって、玩具も湯飲みも同じ扱いとなる。私には、興味とか趣味というような不純な心はまだない。勝手に判断してもらっては困るのである。この確認の行為は、純粋な『ことば』として、受け止めてもらいたいのである。「スリッパなんかに興味があるなんて、変な子」というのも、また「熊さんに興味がなくて、電気のコードに興味があるなんて、変な子」というのは、純粋な私との間での会話にはなっていない。
この事件以来、私は厳しい監視のもとに置かれるようになった。必然的に二点支持から三点支持への移動の訓練が積み重なる。足腰が随分鍛えられた。動きが敏捷になるにつれて未確認物体が遠くなる。
私の視覚で捕らえられるものは、全て未確認物体である。この世で初めて体験するものばかりである。また、未確認物体の確認手段としては、母親の胎内の時代から備わっている本能から来る味覚と臭覚であって、いわゆる世間で言う動物的感覚という奴である。興味とか趣味が湧いて味覚と臭覚を使うのではない。何だろうと確認するために使うのである。したがって、玩具も湯飲みも同じ扱いとなる。私には、興味とか趣味というような不純な心はまだない。勝手に判断してもらっては困るのである。この確認の行為は、純粋な『ことば』として、受け止めてもらいたいのである。「スリッパなんかに興味があるなんて、変な子」というのも、また「熊さんに興味がなくて、電気のコードに興味があるなんて、変な子」というのは、純粋な私との間での会話にはなっていない。