ことばのスケッチ
私が確認しようと手を出すと、私の手の届かないところへ移動させられる。テーブルの縁に脇を載せて、自分の体重を支えてやっと立っている私にとって、その行動範囲はせいぜい両手を広げた範囲である。もう少し体を乗り出せば、未確認物体に届くのであるが、それもできない。何とか未確認物体を確認しようと、脇の下をテーブルに添わせて移動した。それにともない体の重心が移動して、足を自然に繰り出す。テーブルと両足で自分の体重を三点で支持する。腰に多少のぐらつきがあるが、腰に力を入れれば、何とかその三点支持の姿勢を保つことができる。時々脇の下と片足で二点支持すると、身体の重心が移動して、必然的にもう片方の足が繰り出されて、三点支持へと移動する。この二点支持から三点支持への移動は、時計の短針の動きのように傍目にはわからない速さである。やっとの思いで未確認物体に指先が届いた。私の指の寸法からして、物体には触ることができても、それを捕らまえて口や鼻で確認することができない。時計の短針の動きを利用して、少し体を移動し、未確認物体を捕らえた。その瞬間に「あ!」という大きな声がして、未確認物体が強い力で押えられた。
「湯飲みをひっくり返されたらやけどするよ!」
「いよいよ、目が離せなくなったわね」
「気をつけなければ!」
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