ことばのスケッチ
(7)
 どうやら、私が食べ物を口から出す『ことば』が解ってくれたらしい。最近になって口に入れるまでもなく、視覚によって味覚と臭覚が判るようになった。したがって、口から出すものが少なくなった。また、味覚と臭覚が発達するにつれて、私の欲望に合うものと合わないものがはっきりしてきた。この欲望をどのようにして満たすかが、私にとって大きな問題である。これまでの私なりの動物的感覚という手段では、到底他人には理解はされず、通用しない。いわゆる意思表示というのが必要になってきた。即ち、動物的表示から意思表示へと転換しなければならないことを悟る。それには、必然的に動作が伴い、音声を発しなければならない。まだ、身軽に動けない私は、椅子に座らされてテーブルに固定される。テーブルの上には、未確認物体が沢山ある。テーブルに固定されている私は、例の短針移動をすることができない。これを見込んで、後一センチというところに、未確認物体が散らばっている。これは人為的なものではなく、自然界の成り行きとして自覚している。したがって、別段腹も立つことはなく、手が届かない歯痒さは感じない。
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