ことばのスケッチ
「カイチ、大きな口をあけて」
 箸に摘まれた赤い色を見て、以前経験した人参を視覚で捕らえる。私は、口を固く閉ざして首を振り、意思表示をした。
「ほら、美味しいよ」と、固く閉ざした口元に押付けられる。暫く押し問答をしていたが、根気に押されて口を開いた。以前経験したほどに匂いはなく、甘い味覚が口内に広がる。
「ほーら、美味しいでしょう」
 いささか、同じ物ばかりを食べてると、昔を懐かしく思うようになる。まだ、指を一本一本離れた状体にするのは難しいが、概略白い液体が入っているグラスを目掛けて「うーうー」と言いながらこぶしを突き出した。
「ハイハイ、牛乳ね」
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