ことばのスケッチ
「ちょっと、息子のところへ行ってくるので、お母さんを預かってくれない」と、家主から電話があって、車で一時間ほどで、その晩の内に連れてくることが度々あった。
私と早苗は結婚の条件の一つとして「互いに親を交換しましょう」と言って、結婚した。二人仲良く新婚生活を送るのも、最小限の社会生活として大切である。夫婦仲良く円満に行くには、少なくとも双方の両親を含めた六人の社会生活のバランスが必要である。世間の離婚の問題に、親のかかわりが深い。自分の親を大切にしてもらおうと思えば、相手の親を大切にするのが道理である。自分の親にはむしろ冷たく、相手の親には暖かく接することによって、「お前の嫁はよくできた嫁だよ」と言われ、「お前の旦那は良くできた人だよ」と言われるようになる。別段、両方の親にこうして欲しい、ああして欲しいと言わなくても、必然的にバランスが取れるようになる。「たまには、私の親のことも考えてよ」と言う夫婦間には、このようなバランスは生まれない。この条件は、純粋であるが故に、二人は今もなお強く結ばれているのである。

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