白煙の向こう《短編》
白煙の向こう
中学や高校の卒業式はちょっとしんみり感慨にふけるなんてこともあったけど、大学の卒業式はその後飲み会でどんちゃん騒ぎして酔っ払って笑って終わった。

ツレはみんな地方に飛んだり就職したばっかで忙しかったから、アッサリしたものでそれからめったに連絡はとってない。


だから、仕事帰りについウトウトして二つほど乗り過ごしてしまった駅で、浅倉に会ったのは本当に偶然以外の何物でもなかった。


**


ガヤガヤと騒がしい店内には、何かを焼いた香ばしい匂いが立ち込めている。

十分にデカイのにも関わらず、どっしりとそれに股がるように並べられた具材のせいで随分と小さく見える鉄板。

隣に並ぶビールジョッキから、ツウ、と大粒の雫が垂れた。


「吉原、モヤシできてるで〜」


目の前の男…浅倉は、長い菜箸で俺の側に白く萎びたような色ばかりを寄せる。肉を食わせろ、肉を。

俺の悲痛な心の叫びにちっとも目を向けることなく、浅倉は握りこぶし一つまるごと入りそうな程大きく口を開ける。
その中に二枚もの分厚い肉が、あっという間に吸い込まれていった。


「それにしてもビックリしたわぁ。いきなり肩つかまれた〜って思たら朝倉なんやもん」

「俺のセリフやし。お前家この辺やないやろ?」


22歳。もうじき迎える今度の誕生日で23歳。社会人の一年目。

長い大学生活、慣れ親しんだジーンズのざらついた感触にとって代わって足に絡み付くスーツの生地には、まだ若干の違和感を覚える。

俺もそれなりに新生活に苦心して無駄に忙しい日々を送っていたから、大学の友人、浅倉と改めて顔を合わせるのは本当に久しぶりだった。
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