“俺様”大家の王国
恐る恐る近付き、音を立てないようにドアを開けて母の靴が無いのを確認してから、
私はやっと「ただいま」が言えた。
「まあ、奈央ちゃんっ!」
久し振りに会った祖母は、嬉しそうに声を上げた。
私は、やっと落ち着いた気分になったけど、祖母のテンションが一気に上がっていくのが分かった。
お茶を淹れたりお菓子を用意したりと、あれこれ忙しそうに動き回っている。
「私がやるよ」と言っても、「いいのよいいのよ」なんて調子だ。
「あれ、おばあちゃん……おじいちゃんは出かけてるの?」
「ゲートボールよ。今日は朝の五時から公園に行ってるわ。
うちの町内はエキスパート揃いだからね……大会も近いし」
「そっか、もうそんな時期なんだ。
……ん? でもこの時期に五時って……空、まだ暗いよね?」
「真っ暗真っ暗。七時頃にやっと明るくなってくるのよ。
そういえば、今朝は月がまだ出てたわね」
「毎年毎年思うけど……凄いよね。この町内のパワフルな老人達は」
「血圧が高いから皆起きちゃうのよ。
でも他にやる事無いし体を動かすのは良い事だから、良いんじゃない?
何より、楽しそうだし」
「そうかもね」