藤士


「先生、今日は何をお探しなんです?」

八百屋の前で立ち尽くしていると、顔見知りの店主にそう声をかけられた。

「何か、滋養に良いものを……」

ひとつ唸ってそう答え、店を見渡す。

店主は、ああ、それなら―と、所狭しと並べられた野菜の中から、一本の長芋を取ってきた。

「麦とろ等にして食べられると良いですよ」


浅黒い顔に眩しい笑顔で、店主はそう言ってきて。


「では、それにします」


と、僕もまた笑顔で、そう返したのだった。
< 16 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop