少女


―何を夢見ているのか知らないが、お前にはここ以外、帰る場所など無いだろう?


まるで体の一部であるかのように馴染む暗闇の中で、あの、低くしゃがれた声が聞こえた。

瞬間、体が硬直する。


ああ、また私は、奴にアソバレル。


そう胸の中で思ったとき、体中に稲妻の如く恐怖が走る。足の先と指先が急激に冷え、冷や汗が吹き出るのを感じた。

暗闇の中で、私はもがいた。


―溝ネズミが

―逃げられると思うなよ


闇の中で闇雲に手と足を動かす。
何があるかもわからないのに、兎に角必死に、ただ何かを掴もうと掌を開いた。


その時、だった。


ふわりと、何かに、その手を包まれたのは。



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