雨
藤士
ざあざあと、激しい雨の音が耳をつついて。
僕は思わず、ああ、と声を漏らした。
「本降りですなあ」
店主である源次郎さんが、随分虫に食われ、変色した本から目を上げそう言いった。まるで宝の地図でもしまうかのようにそれを閉じ、硝子戸の向こう側の純白の世界に目を向けた。
ええ、と眉を下げて応えると、むう、と唸って返される。
「借りていかれますか、傘」
「……助かります」
小さく頷いて微笑うと、源次郎さんは目元をくしゃりとさせて、店の奥へそろそろと入っていき、暫しの後ワインレッドの傘を持って戻ってきた。
「随分古いもので申し訳ありませんが」
そう言って、僕の手に傘の柄を握らせてくる。
ありがとうございます、と頭を下げると、いえいえと首を横に振り、相変わらずの人懐こい笑みを向けてきた。
「さあさ、はやく行かれないと、もっとひどくなってしまうかもしれませんよ」
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