沈みゆく夕陽は最後の力を振り絞るように、目に痛いほどの強い橙で町を染めていく。
すれ違った親子は、手を繋ぎ笑い合いながら、わらべ歌を歌っていた。


夕焼け空にからすが消えていく頃。外はもう、大分日が暮れていた。


予想よりもはるかに長く周平の家にいたという事実に、自分自身でも驚きつつ、ひとり、家路を歩く。中ごろまできたところで、帰り際、周平に言われた言葉が頭を過ぎった。


厄介ごとには、関わるな。


僕が放ったあの言葉から、何かを感じたのだろう。周平は、眉間に皺を寄せてそう言った。その、何かを抉るような鋭い視線を曖昧な笑みで交わした僕に、最後は深いため息をつかれたけれども。

彼は、見かけによらず世話好きな、優しい男だ。

きっと今頃、なにも言わない僕にいらだっていることだろう。

今まで幾度か見たその姿を想像しつつ、あらためて、良い友を持ったなと思った。

しかしまだ、彼女のことは話すべきではない気がするのだ。



小さな小屋のような家がぽつぽつと建つ場所から、次第ににぎやかな町並みに出る。
僕はその大きな道の先にある我が家を―いや、家で待っている彼女のことを考えながら、歩みを進めた。

昼は汗をかくほど暑くとも、さすがにこの時分になると冷え込む。彼女の、寒さに弱そうな細い体を思い出し、体を冷やしていないといいが―と心の中で呟く。


…それに、今頃、腹をすかせているかもしれない。


一度沸いた不安に、そうさらに不安が重なれば、自然と歩調がはやまる。だが一瞬冷静になってみれば、こんな自分は、どこか可笑しかった。

ちいさな気恥ずかしさを抱えながら、歩みを進める。しかし、大分進んだところで妙なものをとらえた。


道の真ん中に集まる、人。子供から大人まで様々だが、みな顔をひきつらせ、互いの顔を見合わせている。
胸に妙なざわつきを覚えながら、怪訝に思い、人をかきわけて中央へと進む。


不安げな人々の顔を見つつ、たどり着いたそこには――





地面に倒れる、あの少女が居た。







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