†Orion†


「……すみません」



目が覚めたように、俺は杉浦さんの腕をゆっくりと放す。

杉浦さんは、さっきまで俺が掴んでいた部分に手を当てながら言った。



「あたしこそ、ごめん。勝手に決め付けたりして……」



うつむいている杉浦さんの表情は、見えない。

ただ、ひどく落ち込んでいることだけは、その口調で分かった。


自然と、俺の右手が彼女の肩に向かっていく。


バイト先なのに。

料理長が早く戻れ、と言っているのに。


――いま俺は、彼女を抱きしめたいと、思っている。




彼女の身体に触れるか触れないかのギリギリのところで、俺はハッと我に返った。



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