紫黒の瞬き
まだ赤くジュクジュクとしている傷口に手際よく薬を塗り、布を巻きつける男の手を私は見ていた。

慣れた手つきで作業する男に関心していると、私の視線に気付いたのか目線だけをこちらに向ける。
そして「思ったより治りが早いな。」と笑みを浮かべた。

それ以降は男も口を開くことなく、火の粉を上げながらパチパチと燃える暖炉の炎の音がしていただけだった。

頭は相変わらずボンヤリとしているが、部屋の様子を伺うようにきょろきょろと辺りを見回していた。

その時ほんのりと甘い香と共に、コトンとテーブルの上に置かれた物に私は視線を落とす。
私の前に置かれたそれは、ほわほわと湯気を上げていた。

浅い皿に盛られた乳白色のとろりとした物体。
それと男の顔を交互に見比べる。

どうしたものかと戸惑う私に気付いたのか、男は一言だけ言った。

「食え。」

私は言われるままにスプーンを手に取った。
スプーンで掬い上げたそれは見た目通りとろっとしていて、火傷に気をつけながら口へと運ぶと甘い香が口いっぱいに広がり鼻腔へと抜ける。

米をヤギの乳で炊き塩を少しだけ加えた物だった。
それは私にとっては母を思い出させる物で、じんわりと目の縁が熱くなる。





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