紅き天
速い。



静乃も目で追うのが精一杯で、きっと受け切れないだろう。



強いんだ、疾風。



ストッと降りて疾風の横に立つ。



疾風は振り向かず言った。



「俺、自分の組の人間を殺した。」



その声は凄く悲痛で、静乃は思わず背中を抱き締めた。



「仕方なかったよ。
私を助けてくれたんだから。」


「ん…。」



弱々しく微笑んで、疾風は振り向いた。



「静乃、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。
疾風、ありがとうね。」


「…怪我させた。」



悔しそうに顔を歪める。



指で血の滲んでいる肩口をなぞり、悪いと言った。



「ありがとうって言ってるの。
謝らないで。」



拗ねたように言うとようやく疾風は頷いた。



「ねぇ、今夜泊まっていい?」


「ああ、怖いか?」


「少し。」


「わかった。
着替えとか持って来い。
俺、布団用意しとくから。」



それでも不安そうに疾風を見上げる静乃に、不思議そうに首を傾げた。



「どうした?
部屋はちゃんと別のにするから安心しろ。」


「違う…。」


「は?」


「そうじゃない。」



静乃に引っ張られ、疾風は木更津の家に向かった。



そっと中を覗いてから入る静乃に、ああ怖いのかと疾風は納得した。




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