君が生きて 俺は死んだ
 
金欠だと訴えていた彼女の姿はなく、先程まで酷評していたCDを片手に……


「何?」

「別に」

「何か文句ある?」

「何も言ってないじゃん」

照れくさそうに、その根源を鞄に放り込んで俺の先をいそいそと歩いた。


「貸してあげるって言ったのに」

「うるさい」

「たまには素直にさ」

「もう話題変えて!」

認めたくないのも無理はない。


多くの者達が"糞"というレッテルを貼った作品。

しかし、それに心を撃たれる人間も少なからずいることを多くの者達は知らない。


でも、それも仕方ない。

人はそれぞれ違った感性を持つ……




だからこそ、自分が良いと感じた物が共感を得られた時の喜びは尋常じゃない。

その感情は別名"調子に乗る"とも言う。

「たぶん最初にあの曲を聴いてなかったらダメだったと思う」

「でしょ!」

「あれはズルイよ。卑怯だ」

「俺の言った通りっしょ!」

「バラードばっかで全体的にダレそうだけど、これはこれで癒し系ロックって感じでいいと思う」

「やっと認めたかコノヤロー!」

「テンションがウザいんですけど」

「フフフ」

「別に勝ち負けとかないから!」

「でも今回は俺の勝ち」

「勝手に言ってろ」


ユチの言った通り勝ち負けなんてのはないけど、自分が薦めた物に賛辞が投げ掛けられるのは喜ばしいこと。

調子に乗るのも無理はない。


「提供賃として飯奢って」

「いつも私が奢ってるのご存じ?」

「だから今回は豪勢な感じのヤツを」

「黙れ」


乗り過ぎも禁物です。
 
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