パリ・ローマ幻想紀行
ホテルはローマ市内のほぼ中心にあった。ローマ郊外からローマ市内へとバスが走る。ガイドさんは日本人であった。車中で添乗員さんが明日の予定を説明し、ガイドさんがお金の計算の仕方と治安のことを説明してくれた。例えばこんな具合である。
「皆さんようこそローマへ!よくある手口を紹介しましょう。若い女の人が小さな子供を抱いて近づいてきます。そして、その小さな子供を観光客にポイと投げるんです。そして観光客はその子供を受け止めざるを得ませんね。その隙に仲間の子供が観光客のバックからお金を抜き取るのです。日本ではとても考えられないことですね。そこが彼らの付け目です。常に用心しているという姿勢が大切ですね。彼らもそう感じている人には手出しはしないようです。一度こういうことがありました。その人は全財産を持っていたのですが、それをすっかりやられました。地元の警察でも現行犯でなければどうすることもできないのです。泣き寝入りですね。その人は折角の楽しい旅行が一変して不愉快な旅行になりました。今回は三十人のツアーですが、私の経験からしますと、約一割の人がそのような目に遭います。こんなことを言いますと皆さんの折角の楽しい旅行気分を阻害しますので、これでお仕舞いにしますが、くれぐれも注意をして、楽しい旅行を満喫してください」
 私は咄嗟に、伊沙子さんがその一割の中に入るような気がして、伊沙子さんの顔を見た。他人事のように涼しげな顔をしているところが、如何にも伊沙子さんらしい。
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