ひまわり


それを知っているから、なんだかおかしくて、思わず噴き出してしまった。


「てめ、笑ってんじゃねぇよ」


そう言って、真っ赤な自転車にまたがって、裏門からの坂を下って行こうとする。


「待って!」


あたしが叫んでも、蔵島恭平は振り向きもしない。


「蔵島恭平っ!」


どこかで見たやり取りに、キキッと急ブレーキをかけて、彼が振り向いた。


その隙に、彼の隣まで走る。


「おまえな……」


彼は、眉間にしわを寄せながらあたしを睨みつけていた。


「苗字で呼ぶか、名前で呼ぶかどっちかにしろよ」

「じゃ、どっちで呼んだらいい?」


出会った頃の彼は、

『勝手にしろ』ただ、それだけだった。


だから、あたしの気の向くままに呼んでたんだ。





「そろそろ、名前で呼んでもいいんじゃね?」


そう言って、『ほら、さっさと来い』と、自転車を押し始める。


頭が真っ白になった。


まさか、そんな言葉が返ってくるとは思わなくて。


嬉しくて、ドキドキして。

また一歩、彼に近づけた気がした。



< 161 / 339 >

この作品をシェア

pagetop