時計塔の鬼
「はいはい。……夕枝姉ちゃんが真っ青になって店に飛び込んで来たからさ、俺は何事かと思ったわけ」
葉ちゃんは、決まり悪そうに苦笑を浮かべ、ポリポリと首筋をかいた。
その仕草とセリフを見聞きして、心配をしてくれた葉平に思わず泣き付きたくなってしまった。
シュウが頭に浮かんで思いとどまったけれど。
「そんなに真っ青だった?」
「それはもう。夕枝姉ちゃんが大学受験で焦りまくって憔悴してた時くらい」
私は、それほどまでに酷い顔をしていたんだろうか……。
「えぇっ」と声に出すのはなんとか堪えることができた。
葉平はめったにウソをつかない。
それが意味するところは――。
「私、相当ヒドかったのね……」
「うん。俺かなりびびったし。……何があったわけ?」
つい、逡巡してしまい、体がギクリと強張った。
本当なら、ここで“何でもないから心配しないで”と笑って言うべきだ。
けれど、先ほどの恐怖が、再び私の血の気を引かせる。
「あ、言いたくないことなら無理には聞かないよ?」
私の様子を嫌がってると取ったらしい葉平が慌てて付け足した。
その優しさに、甘えたかった。
甘えてしまいたかった。
でも、それはしてはいけない。
思い止まるよう、自分に言い聞かせる。