時計塔の鬼


「さて……と。さすがに、もう行かなくちゃ」


歩美が心配しているかもしれない。



……本当は、シュウの傍にずっと居たい。

時計塔でシュウと過ごす時間が、永遠に続けばいいと、強く思う。

けれど、それだけじゃダメなんだとも思う。

放り出してしまいたくもなる、この教師っていう仕事の義務と責任を全うしなくては。

でないと、それこそずっと、シュウに会えなくなってしまうかもしれないから。



「えー……夕枝ー」



廊下から、近付いてくる歩美の声が聞こえた。



「はーい! 歩美、ここここ!」



零れた涙の跡をぐいっと力強く拭い、私は教室を後にした。






「もー! 夕枝ってばこんな長い間どこ行ってたのよ!? すっごく捜したんだからっ!」


「ご、ごめん……」



予想通りというか何というか。

やはり、歩美はぷりぷりと怒っていた。



「ったくー、夕枝なんか元気ないしさー?」



――ドキッ

続けて発せられた言葉に、心臓が、音を立てて一際激しく跳ねた。


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