時計塔の鬼


「あ、そうそう、夕枝」


「ん、なぁに?」


「私、鬼を見てみたい」


「熱っ……っゲホ……ゴホッ……」



飲んでいたコーヒーが一気に器官まで流れ込んで、口内には痺れが走った。

むせたせいで、喉が痛い。

けれど、今はそれどころじゃない。



「な、あゆ、み? 何言って……」


「ちょっと大丈夫? 水飲む汲んでくるから待ってて」



私の言うことに構う間もなく、歩美はすぐに席を立っていた。

なかなか喉元の痺れが治まらない

特別猫舌というわけではないのだけれど……。

歩美と話す時は熱いものを飲みながら話すべからず。

密かに心の手帳に書き込んだ。



歩美は、しばらくして、水が入ったマグカップを持って帰ってきた。


「はい、お水」


「ありがと……」



冷たい水が、喉を一気に冷やして体の奥へと収まっていく。

まだ舌に少しのしびれは残っているが、気になるほどではない。


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