時計塔の鬼

いつまでも続くかと思われた歩美と坂田君の言い合いに、少し高い声が割って入った。



「なぁ歩美ちゃん、めっちゃここ、電波悪いねんなぁ……」



みかんちゃんはおそらく、自分のものだろうオレンジ色の携帯電話の画面を凝視していた。

みかんちゃんの口元が、不満げに形作られている。



「そうかあ?」



坂田君も自分の携帯電話をみた。

つられて、私も歩美も。

確認すると、立っていた電波受信のマークは一本だけだった。

それも、すぐにゼロになりそうになる。



「あ、本当……」


「やろ? 高校ってそんなもんなんかなぁー…」



坂田君と歩美はすぐに携帯をしまった。

さすがに、勤務中だからだろう。



けれど、どこか変だ。

この学校の職員室にも、電波は普通に入ってくる。

三本、ちゃんと、立つ。



ふいに、フッと、シュウの顔が浮かんできた。


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