時計塔の鬼


それにしても……と、思考を再び巡らせた。

さっきのシュウは、本当に怖かった。

纏う雰囲気がギスギスしてて、その尖ったトゲが、シュウ自身までも傷つけてしまうのかというくらいに。

理路整然とした理由なんて、よくはわからない。

けれど、なんだか……シュウが泣いているように思えてしまった。

本当に、よくはわからないのだけれど。



シュウが田中君にきっぱりと言った言葉。


“夕枝は俺のだ。夕枝の恋人は俺だけだ”


胸が、壊れてしまうかと思ってしまった。

否、今も、思い出すだけで、胸が、心が、シュウへの恋しさでいっぱいになって、それが溢れ出してしまいそうだ。

もしかしたら、もう溢れ過ぎていて、遅いかもしれない。



「夕枝」



シュウが私を呼んだ。

お互いに自己紹介が済んだらしく、みかんちゃんなんて、目をキラキラさせてシュウの手を握ってる。

……スキンシップのしすぎではないだろうか。

心の狭い自分がいることに気付いた。

狭くて暗くてどうしようもないほど嫉妬してしまう。

……そんな自分が嫌になる。



「離せって」


「ええやん~」


「だから……っ!」


「ほんまかっこええなぁ。うちのタイプとちゃうけど」


「なら離せ。ていうかくっつくな」



少し乱暴に払う素振りをすると、意外にあっさりとみかんちゃんは手を離した。

独特の間合いを持ってる子だな、と思う。

同時に、タイプじゃないと聞いて安心してる自分がいるのを自覚し、自分の浅ましさに溜め息を吐いた。


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