キミノタメノアイノウタ

「何だよ?」

灯吾は暑さのせいで話すことも億劫なのか、恨めしげに私を睨んだ。

…その無愛想さに本当に迷子にしてやろうかと思った。

「どうしてこんな辺鄙な田舎に来たの?」

ずっと気になっていたので、この機会に聞いておきたいと思った。

灯吾は本当に何の目的もなくこの町にやって来たのだろうか。

それとも、人には言えない秘密でも抱えているのではなかろうか。

……灯吾の眼はこの町の自然を映しているはずなのに、どこか虚ろだった。

「侑隆からホントに何も聞いてないのか?」

「うん」

そう答えると灯吾はあからさまにため息をついた。

「……療養」

「療養……?」

「そう。俺だって悩み多き現代人なんだよ」

灯吾は肩をすくめると、私をからかうように言った。

「お前みたいな田舎者にはわかんないだろうけどな」

(どうせ、私はこんな辺鄙な町に住んでる田舎もんですよ)

「あんただってここにいる以上はこの田舎の一員なんだからね!!」

イーっと歯を見せるようにして言うと、灯吾は不愉快そうに眉を寄せた。

< 20 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop