キミノタメノアイノウタ

ハルは常にひとりで歌う。

他にも歌っている奴を見かけたことがあるが、ハルのように女ひとりで歌っていることはまずない。

ニット帽はきっと女だということをなるべく隠すために被っているのだろう。

ハルの歌声は女にしては低いし、身長も高い。

……悔しいことに俺より高い。

髪さえ隠せば女か男か判別するのは難しくなるだろう。

ハルはその乱暴な口調とは反対に、なかなか面倒見のいいやつだった。

毎日のようにうろちょろする俺を疎んじるでもなく、時々ギターを触らせてくれた。

その反面、時間には厳しくあまり遅くなる前に帰らされた。

若く見えるのに、しっかりもの。

いつだったかおばさんと言ったら、まだ22歳だとすごい勢いで怒られた。

それから歳のことに触れなくなった。

ハルは俺のことを聞かない。

だから俺もハルのことを聞かない。

そんな関係がちょうどいい。

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