heaven
突如背後から聞こえた声に振り返ると
にこにこと笑顔をたたえた男が立っていた。
鬱陶しいほどの長さの外套を身にまとって
上りかけた太陽を背に手を叩いている。

「……ルシフェル?」

「ああ、お疲れ様。
……まったく、こんなに汚して」

云いながら、彼はハンカチでキラの頬を拭う。
真っ白なレースのハンカチが、
ぬぐった物の色に染まっていった。

「……」

まるで葬式に参列する者のような顔つきでうつむくキラに、
ルシフェルは笑いかける。

「派手にやったね」
「ああ」
「どうだい?気分は晴れた?」
「そんなつもりでやったんじゃない」
「ああ、そうだったね。君はあれだ。
対価としてこれをしたんだものね」

底の厚い靴で、ルシフェルは地べたに転がる男の顔を蹴飛ばした。

「ううん、汚いね。
さっさと処分してもらわないと」

彼がそう言ってポケットから取り出した小さな笛を吹いた瞬間、
使い魔の数が増え始めた。
カラスの群れが西の空からやってくる。
肉体を食い漁るのではなく、
あたりを浮遊する霊魂を喰らいに来るのだ。

「さて、器の方は別の団体がなんとかしてくれるだろう。
さあ、私と一緒においで」

「どこへ」

「儀式の間だ。すでに君の大切なものについては手配してあるよ」

その言葉にはっとしてキラはルシフェルの後ろについた。

「会えるのか」


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