抱けないあの娘〜春〜



花冷えなのか、4月と言えどもまだ夜の屋上は冷え込んでいた。空気が澄んで月明かりが眩しいくらいの夜だった。



呼吸を整え、可奈の携帯に電話を掛けた。






「もっしも〜し♪だぁれ?」



「……咲哉だけど。」




「咲哉!?やだ超うれしいんだけど!なになに〜デートのお誘い?」




「可奈…何で僕の寮まで来たんだ?」




「え?あの…えっと…」



「勝手に彼女だって言っただろう。何度も言うが僕達はもう別れてるんだ。もう関係ないのにいきなり寮に現れるのはやめてくれ。困るんだよ。」



「別れてなんかないもん!!認めないって言ったでしょ!」



「今さら何言ってんだよ…少なくとももう何ヵ月も会ってもないし連絡だって取ってないじゃないか。それでもまだ彼女だって言うのか?」




「だって…だってぇ…あんなカッコイイタキシード姿であたしの前に現れる咲哉が悪いんだよ!今までそんな格好の咲哉を見たことなかったもん。いつも制服かジャージか汚いユニフォーム姿ばっかでさ。嫌だったんだもん!!」




「あのなぁ…年中タキシードなんて着てるわけないだろ!それにあの場所で汚い格好でいられるわけないだろが!?いつもジャージばかりで悪かったな!」




「だから!あたし運命感じちゃったんだよね〜♪あんな高級ホテルのパーティー会場で再会なんて…あたしはドレス、咲哉はタキシード姿で!ね、そう思わない!?」



「……全く思わない。」



「何で〜!咲哉だって久々にあたしに会えて嬉しかったんでしょ?だから電話してきたくせに〜♪」




「あのさ、話をすり替えるなよ。僕は何で寮にいきなり来たんだって聞いてんの!!」



「撮影で近くまで行ったから…あ、明日も同じ場所で撮影なんだ♪だからまた行くね♪」




「来るなって言ってるだろうが!」




全く話が噛み合わない…




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