ソンザイ

天使は悪魔

いつものことだった。特別珍しいことでもないし、唯一例外があるとしたら普段より多く叫んでたぐらいのものだった。でもその例外がまさかの事態を招いたのだ。
「その願い叶えてやろうか?」
どこからともなく声がした。
私はあたりを見回したがそれらしき人影はない。でも確かに声は聞こえた。おかしい、声は私の耳に届いたというより頭の中に響いたのだ。
その願い・・・。
今、私が言った中で「願い」と取れるものと言えばひとつ。『あんなヤツいなくなればいい。』その願いを叶える?それって殺人じゃないか。
その前に声の主もわからない。誰だ・・・。とたんに不安が渦巻いた。
「誰だっ!?」
私は叫んだ。
いつもの倍は叫んでいる気がする。明日は喉がかれるんじゃないか。
そんなことはどうでもいい。私は、恐怖や不安や怒りを感じると大声で叫ぶ癖がある。
周りの人から見たら大迷惑だけど私にとってそれが一番のストレス解消法だったり恐怖から逃れる手段である。
私が叫んで5秒ほどの沈黙をやぶったのは目も開けられないほどのすさまじい光だった。ようやく光がやんで目を開けた私の目の前に現れたのは男。
長髪で明らかにウザいぞと直感で感じることのできる笑顔を振りまいている男がいた。それだけでも気味が悪いのだがなによりも私の目を疑わせたのがその男のいる場所である。確かにその男は浮いていたのだから、わが目を疑うのも仕方ないことだろう。その男の口が重々しく開かれた。
「願い、かなえたいだろう?」
さっきの、気味の悪い声が体育館裏に響いた。
しかしさっきの声とは大きな違いがあった。しっかりと、耳に聞こえる声だったのだ。頭に響くこともなくしっかりと母さんの声とか、父さんの声とか、優衣の声とか蒼ちゃんの声とかしろの声とかみたいにしっかりと耳に突き刺さって聞こえる生身の声。
その声に私は少しの安堵感と、さっきとは違う恐怖に背筋に鳥肌が立った。
「もう一度言う。お前の望み、叶えてやろうか?」

なぁ、私にとってアンタは天使?悪魔?

< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop