夏海(15)~ポケットに入れてるだけの電話が勝手に電話することってあるよねー

エンドケイプ様のカメラ

ポンと勢いよくソファーから跳ね上がり、そのまま熱唱中の秋の背中を踏み台にジャンプ。
私の鼻先が天井につく寸前に体を180度ひねると、ポカンと見上げる新日本プロレスのシャツを着た男と目が合った。
まるでスローモーションのように長い時間、男の視線は宙に浮く私のことを追い続けた。
だから、私はニヤリと笑った。男も釣られて顔を引きつらせた。
〈その首もらった〉
私の両脚は男の首をガッチリと挟み込み、そこを軸として一気に上体を後ろへ反りかえした。
テコの原理だ。体重差なんて関係ない。男の身体がフワリと浮いた。
「ちょ、待て」と男は呻いた。
悪いが待てない。
回転する私。回転する男。
首を私の脚に挟まれた男は、ちょうど前宙返りするように見事なほど美しいフォームでクルリと廻った。
技の美学は受身の美学。
私の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。正直少しくやしい。こんなに狭い場所でここまで綺麗に技が決まった理由が、自分ではなく、男のセンスに頼っている気がした。
派手にガラステーブルをぶち破り男の頭部は床にめり込んだ。
まぁ、こんな姿を見せられたら受身の美学も何もないのだが。
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