ウソ★スキ
ママには、途中で電話を入れた。

「遅くなるけど、ちゃんと家に帰るから心配しないで」

ママは「分かった」って、静かに、優しく言ってくれて。

「……ねえ、ママ」

「なあに?」

「あたし……家に帰ったらママのおむすびが食べたいな」


「了解!」って明るく言うママは泣いていたけれど、あたしはそれに気付かないふりをして電話を切った。




そして、ようやく辿り着いた家の前の公園。

家までもう少しだ。
あと、もう少し……


だけど、あたしはそこで足を止めた。



だって──

公園の入り口には、1台のバイクが止まっていて、

公園のベンチには、昼間泣きながらその背中に抱きついた、見覚えのある人影があって……



「……先輩」



あたしが公園に足を踏み入れると、それに気付いた先輩は両手で自分の頭を抱えてしまった。


「……どうして? どうして先輩が、ここに?」

「それはこっちの台詞だよ」


深い溜息をひとつ吐きながら、先輩が一瞬だけ、目の前に立つあたしを見上げた。


……だけど、またすぐに先輩は俯いてしまって。



「終電の時間まで待って、それでも帰ってこなかったら、今度こそ潔く美夕ちゃんのことを諦められると思ったのに」

ゴクリと唾を飲み込んで、先輩は続けた。

「それなのに……どうして帰ってくるんだ?」


両手で顔を覆ったままそう言った先輩の声は、震えていた。


< 555 / 667 >

この作品をシェア

pagetop