「ぎゃぁぁぁぁあっ!」


 多分御殿を見ている人が居たら、ブルーシートがたなびいたのが解っただろう。

つまりそれ程の大声を、と言うより絶叫を俺は上げていた。


「なんで! 一体どうしてだ!」


 地面に落ちたココアの袋を見詰め途方に暮れる俺。開封を焦る余りに手が滑り、哀れそれは回転しながら中身を振り撒き、放物線を描いて地に墜ちた。

下が部屋の床ならまだしも、カマドが有るここは当然外だ。じゃりじゃりと川石だらけのそこへ、純度99%のココアパウダーはふんだんにばらまかれていた。


「そうだっ、袋には残ってるのか?」


 慌てて駆け寄り拾い上げてみてホッとする。大丈夫、まだ半分は残っている。

しかし俺は中学卒業の春、貰い事故で家族全員を失った時のように、悔し涙で暮れていた。


「俺はどうしてこう片手落ちなんだ、慎重さに欠けるんだっ! だから大切な契約書も良く見ないで判子を押してしまうんだ」


 その時の俺は、今までの悲しみや悔恨が一気に押し寄せてきて、オイオイ声を上げて泣いた。

しかしそれは必要な涙だったみたいで、涸れるまで泣いたその後は、なんだかとても晴々とした気分になった。


「なんだか下らない事で大泣きしちまったな。でもいいや、スッキリしたし」


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