俺は細心の注意を払いながら、ココアをふた匙サジマグカップへ投入する。

やはり最初の一口はブラックだ。ココア本来の香りを心ゆく迄楽しむ。


「これこれ。この香りが精神を落ち着かせてくれるんだ」


 そして充分堪能した後は山野内さんから貰った粉末クリームを一杯、砂糖を三杯入れてかき混ぜる。ワンツースリーの黄金配分だ。


「ああぁぁぁっ、旨い。やっぱココアは最高だね! この浮き立つ泡のクリーミーさ。口の中で溶けてしまいそうな甘さなのに、しっかりと存在を誇示する後味と舌触り。うん、買って正解!」


 あの惨事さえ無ければこの至福の時が二倍多く訪れる筈だったが、あれのお陰で上手くガス抜きが出来たから、ここは(ココア)良しとしよう。

 なんて下らない事を言ってる内に今日のメインイベントは始まっていた。


「はぁっ、夕焼けを見逃すところだった!」


 今日の雲ひとつ無い空を茜色に染めて、昨日よりも更に大きなお日様が沈んでいく。

朝の華々しさとは程遠い、しかしズッシリとしたその面持ちは、今日一日を精一杯輝いた物だけが見せる特別の表情だ。


「今日は大変有意義な一日を有り難う」


 俺はお日様に最敬礼をして岩から離れた。


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