「何言ってんだよ婆ちゃん。とっつぁんはとっくにアッチの人。婆ちゃんは人妻じゃなくて未亡人だろ未亡人。恋したっていいじゃないか」

「いやだねぇ。中島さんはなんでもお見通しなんだから。年寄りに恥ずかしい思いをさせるんじゃないよ、まったく……」

豆腐屋のお婆ちゃんはそうブツブツ溢しながら歩き出します。

「頑張ってな〜」

中島先輩が手を振って見送るのを、振り返る代わりにちょっとだけ手を動かして答えるお婆ちゃん。

「見たかよ三塚、やっとオクニ婆ちゃんにも春がきたみたいだぜ」

まるで自分のことのようにはしゃいでいる中島先輩を見て、正直本官は冷めていました。


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