W・ブラッティⅡ

4

 断片的な記憶が脳裏をよぎる。


『お前の名前は新沼慎次だ。今日からしばらく新沼で過ごしてもらう』


 見たことも無い男の人だ。白衣を着て僕のことを撫でてくれている。きっといい人だったのかな?


『こいつの名前は新沼健吾。私の息子だ』


 そこにいたのはいかにも若者というファッションの男。金髪で耳にはピアスをしている。


『これからよろしくな』


 健吾の差出された手を慎次は思わずビクッとして白衣を着た男の背後に隠れた。思い出すかのように白衣の男は健吾に、


『この子はまだ記憶操作してまだ日が浅い。まだ錯乱する部分が残っているはずだから気を付けて扱ってくれ。くれぐれも殺さないようにな。今度は前のようにはいかないからな』


 男は厳しい目つきで健吾を睨む。賢吾はそっぽを向いて、


『分かってるよ!この前のことはやりすぎたってことくらいは!』


 男は小さくため息をついて、頭を抱えた。


『まったく、私の息子だというのにまったく技術は使えないのでは役にも立たない。この一件で終わらせるとするか』


 そう言うと、男はもう一度慎次の頭を撫でて車に乗った。慎次は男の車を追いかけるが健吾がその行く手を阻んだ。


『さあ行こうか。慎次。今日から俺が君のお父さんだ』


 声は笑っていたが、顔は笑っていなかった。そして健吾の伸びる手が不気味な悪魔の手のように感じた。


 そこから悪夢が始まった……。
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