線香花火 ** 夕恋独白
猛暑だとか、熱帯夜だとか。

毎年聞いてるけど、今回のはちょっと比にならない。

うだるような暑さにむかついて、ベッドから起きると冷蔵庫に向かった。

プシッといい音を立てて、炭酸の匂いが鼻孔を刺激する。

カラカラだった喉が少し楽になった。

そういや、誰か言ってたっけ、首元を冷やしたら寝やすいとかなんとか…

冷凍庫をガラッと開けて、僕は固まった。

アイスノンの傍らに転がったみぞれのカップ。

僕はアイスノンを掴むと乱暴に閉じた。

まだ消えない君の影。

ハァ、とその場にしゃがみ込む。

君が出ていって二年が経った。

僕はいつまで君を忘れられないんだろう。

アイスノンに顔を埋めた。

眠れないのは暑いからじゃない。

思い出すからだ。

今も胸に残る線香花火。

君は得意げに火をつけて、微笑んでたっけ。

僕たちは未来を火種に乗せた。

そして、それは擦れ違ってしまった。

いつまでもなんて、信じて疑わなかったあの頃。

君は、何が分からなくなったというんだろう。

見知らぬ世界の袋小路に迷い込んだみたいだ。

去年独りで線香花火に火をつけて以来、庭で涼むことはなくなった。

閉じっ放しのカーテンの向こうには、君が育てていた朝顔が勝手に自生している。

蒼いあの花が、妙に僕を苛めるんだ。

燃えすぎて、ポタリと堕ちた僕の花火。

僕は今夜も眠れない。

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