線香花火 ** 夕恋独白
いつの間にか、陽が傾くのが早くなったみたいだ。

スーパーの袋をテーブルに乗せ、夕食の材料を取り出した。

うんざりするほどの猛暑が続いたせいで、幾分すっきりしたボディライン。

周りが変な気をまわすから、とりあえずは食事を詰め込むことを日課に加えた。

本当は、分かってる。

夏になるたびに食欲が落ちるのは、妙な感傷によるものだと。

意外だった。

自分がそんなに繊細だったなんて、これっぽっちも思わなかった。

突然告げられた別れの言葉。

その意味を飲み込む間もなく、君は姿を消した。

それが、こんなにも僕の心をえぐるだなんて。

こんなにも寂しいだなんて。

君の温度を感じることが、当たり前だったあの頃には、本当に分らなかったんだ。

僕はぬるいビールを掴んだ。

もう、二年だ。

友達は口々に言う。

「もう忘れろよ」って。

女々しい自分にうんざりしているのは、何も僕だけじゃない。

カサリ・・・

汗をかいた缶の水滴が、ビニール袋の上へ落ちた。

タン・・・ッ

今度はテーブルの上へ。

弾けた水滴があの火種とダブる。

「あなたにとって、あたしはどんな存在だった?」

荷物を片手に出ていく前、君がぽつりと呟いたあの言葉。

今の僕なら・・・。

もしかしたら、君の欲しかった答えが、返せたのかもしれない。

だけどあの時は、君の問い掛けた言葉の意味が、見えなかった。

いつまでも続くと思っていた未来への道。

君もそうだと・・、たとえ確かめ合わなくても、君も同じだと思い込んでいたから。

結局、何一つ口にしなかった君への想い。

僕にとって、君は、かけがえのない大きな存在だと。

愛してると。

心だけでもいい、そばにいてほしいと。

「ハハ・・・」

僕はビールを流し込んだ。

もうすぐ、季節が変わる。

カナカナカナ・・・日暮しの鳴き声に、胸の奥を少し焦がされながら、僕は夕食の下ごしらえを始めた。







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