図書館で会いましょう

展示会も終わり由美も通常の仕事に戻っていた。次の展示まではしばらく間がある。展示会の準備をしていた頃と比べれば想像もつかないぐらい平穏な日々だった。由美の仕事の中で司書としての仕事がある。由美はデータから貸し出しの多い本、逆に少ない本のデータを打ち出してチェックをしていた。
「もったいないような気がするけど…」
極端に少ない本を入れ替えようとしている。見たり読んだことのない本が多く、由美の興味をくすぐるものも多かったが、
「仕方ないか…」
とため息をつきながら本棚から取り、箱にしまう。これらの本は蔵書という形でしばらく倉庫にはしまうが、しばらくしたら処分するかもっと大きな図書館に譲るかになる。由美は写真集などが置いてある棚のところでリストにあった本を手にかけた時だった。
「あっ…」
声のするほうをみるとそこに北澤晃が立っていた。
「あっ…」
由美も呟くように言う。
「それ…」
北澤は由美の手の先にある本を指差す。
「それ…どうするんですか?」
北澤の口調は淡々としたものだった。
「これ…ですか?」
北澤は黙って頷く。
「貸し出しが少ないもので蔵書にしようかと…」
由美の言葉に北澤はその本を奪うように取る。一瞬の行動に由美は言葉が出なかった。
「それならこれ…僕に譲っていただけませんか?」
「はいっ?」
図書館の本を譲ってほしいという人間なんて今まで聞いたことがない。思わず目を丸くする。
「お願いします!」
「でも…」
北澤は淡々とした口調だが表情は少し興奮しているようにも見える。静かな図書館の中でのやりとりに周囲の人間がちらちらとこっちを見ていた。今まで研究室暮らしの由美にはどう対処すれば良いのかわからなかった。
「どうしました?」
由美の後ろから声がする。振り向くと館長が立っていた。由美にはこれ以上ない救いの神だった。
「あの…」
由美は今までのやりとりを説明する。北澤は黙ってそれを見ていた。
「そうですか…」
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