図書館で会いましょう
「ごめんなさいって…」
「私はあの日を受け入れまいともがいてました。信じたくない、信じたくないと逃げてました…」
誠司の母親は黙って由美の言葉を聞いている。
「この一年、この町から離れていました。そうすれば何もかも忘れられると思ったんです。でも、それは誠司の気持ちを知ろうとしない、目を背けているのだと思ったんです。」
「…」
「現実を、何もかもを受け入れようと思いました…それがどれだけ辛いことかは分かっています。でも、もう誠司に頼ってはいけないんだと思い…今日、ここに来ました。」
誠司の母親はじっと由美の背中を見つめていた。その肩が少し震えていることに気づいた。それに気づくとふっと一息ついた。
「由美さん、こっち向いて。」
由美は答えず、黙って振り向いた。案の定、その目は赤くなっていた。
「由美さん。改めて、今日来てくれてありがとう。」
由美とは正反対に微笑む。
「誠司はね、あなたと出会えて本当に幸せだったんだと思うわ。」
テーブルの端に置いてあった急須と茶碗を取る。お茶を注ぎ、茶碗を一つ由美の方に置いた。
「さあ、どうぞ。」
由美はお辞儀をし、茶碗を手に取った。
「私には…由美さんの幸せが何なのかわからないけど…でも、誠司に捕われてはいけないと思うわ。」
誠司の母親は仏壇に顔を向け、誠司の遺影を見つめた。
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