図書館で会いましょう
「だって…北澤さんも勇気が出ないとかそういうのあるんですね。なんか似合わないなーって。」
由美がそう言うと北澤は少しふてくされた顔を見せる。
「そりゃあ、僕だって人間ですから。」
「はは…」
二人ともしばらく言葉を止める。日差しは暑いが、山から吹く風が心地好い。こんなに心が軽いのは久しぶりかもしれない。誠司と本当の別れをした後、真理子に報告をした。そして真理子の前で一生分かもしれないというぐらい涙を流し、そして前に進む覚悟を決めた。
「何か遠山さん、良い顔になりましたね。」
北澤は再び筆を取りはじめた。
「良い顔?」
「ええ。何でか分からないし、どう表現すれば分からないけど…」
「多分、北澤さんと同じですよ。」
北澤の顔もまた良い表情だった。
「僕も?」
「ええ。北澤さんも良い顔です。」
「そうですか…お互い過去にケリを着けたんですかね。」
「まぁ、そんなところです。」
再び沈黙となる。ただし、嫌な沈黙ではない。それこそ清々しさも感じる。
しばらくして由美が立ち上がる。
「じゃあ、私はここで…」
由美の言葉に北澤が足元にあったカメラを手に取る。
「遠山さん。」
「はい?」
「すいません。この景色で遠山さんを撮って良いですか?」
「私を?」
北澤の申し出は由美にとって意外なものだった。北澤が人間を撮りたいということはどれほどの気持ちか、おそらく由美にしか分からないのかもしれない。
「でも…」
「すいません、突然。でも無性に撮りたくなって…」
由美はしばらく考え、
「分かりました、良いですよ。」
「じゃあ、山を背景に。」
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