図書館で会いましょう
最終章:出会いのかけら

出会いのかけら

並木通りを自転車で駆け抜ける。夏ももうすぐ本番。夏休みに入れば図書館にも大勢の人が来るんだろうな、とそんなことを考えていた。
由美が向かっているのはあの湖のある公園。今日のような良い天気なら北澤がいるかもしれない。誠司と本当の別れをして、北澤の顔を見たくなっていた。
しばらくして公園に着く。公園の入口に自転車を止め、いつも以上にゆっくりと歩いていく。木々の間から湖が見えてくる。北澤はいるのだろうか?由美は湖の畔を右から左へと視線を動かした。
「あ…」
動かした視線を途中で止める。畔では目立つキャンパスを見つけた。北澤だ。北澤は音楽を聞いているのか、ヘッドホンをしている。由美はゆっくりと北澤に近づくが、北澤はまったく気付いていない。由美はわざと声をかけず、北澤の横に座った。
「あ…」
北澤は由美が座り込んだところでやっと気付いた。慌ててヘッドホンを取り、由美を見つめた。
「こんにちは。」
由美が声をかける。ただ、視線は北澤に向けず、目の前の景色に向けていた。
「こんにちは。」
北澤が応える。筆を止め、画材を足元に置いた。
「この前はすいません。」
この前とは北澤の家の出来事を言っているのだろう。考えてみれば、あれから北澤とは会っていない。
「別に…大丈夫ですよ。」
「謝ろうと思っていたんですが…なかなか顔を合わせる勇気が出なくって。」
勇気が出ないという言葉に由美は思わず笑ってしまった。
「何で笑うんですか?」
北澤は不思議そうに由美に問いかける。
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