ふたつの指輪
あたしは、淹れたコーヒーを差し出した。


「それでもね、途中で”だからそれはさっき謝ったじゃないの!”とか怒ったりされたけどね。

まあそれならまだいいんだけどね。

”親に対して何てこと言うの”とか”ここまで育てたのに、恩知らず”とか言われたのは正直きつかった」


「ああ……」


尊さんはうなずいた。


「それはしょうがないな。

いきなり、無力だと思ってた子どもに反旗を翻されたんだ。

最初から”あーそうですか”ってわけにはいかない。


そんなデキた親だったら、きっと最初から苦労はしないだろう」


「ああ、うん。そうだよね。そう思う」


あたしもコーヒーをすすった。



「でもさ、不思議なんだけどね。

何日か顔見なかっただけなのに、今日ママに会ったら、どこかの普通のおばさんに見えたの。

あたしのママじゃなくて、ごく普通のおばさん。

悪い意味じゃなくてね。

顔は変わってないのにね。変な感じだった。


だからね、ママに反論されたりキレられても、思ったより冷静に話ができたんだと思う」


「ああ……」


尊さんは顎に手を当てて、考え深げにうなずく。
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