ふたつの指輪
「……誰も悪いなんて、言ってないでしょ」


むくれるあたしに、鋭い声が掛けられる。


「おい、今日は喫茶店のバイトあるのか?」

「ない」

「フーゾクは?」

「……ある」

「休め」


即返ってくる、厳しい口調。


「体調不良でも何でもいい、電話しろ。

いいか、絶対に行くなよ!

しばらく行けないと言え」


激しい剣幕に、あたしはあわてて何度もうなずいた。



「俺は今から会社に行く。

なるべく早く帰ってくるから、一歩もここを出るな。

わかったか?」


「……」


「わかったら返事しろ」

「はいッ」


思わず、体育会系みたいな返事しちゃった。
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