おいしい紅茶を飲む前に
 観光という言葉を使ったけれど、実際はそれとは内容が少々異なる。

これから暮らしてゆく街の、名所旧跡を案内しても仕方がない。それらは追々見えてくるものと期待して、彼が妹に叩き込みたいのは、『決して危険に遭遇しない効率の良い暮らし方』であった。

 ひとりで歩いていいエリア、曲がってはならない小道。助けを求めることのできる家や相手。そしてその時に言うべきこと、言うべきではないこと。


「そんなに危険な街なの? フレディ。そんなこと、手紙にはなにも書いてなかったじゃない」

「書いたら喜ぶだろうと思って」

「喜んじゃいけないの?」

「ここに来たくなるから。それが、僕には嫌だったんだ」

「どっちにしても来ちゃったけど」

「……対岸の火事の方が良かったかな」
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