秩父市国
秩父独立宣言
 小窓から照りつける日射しに、慎二は気持ちの悪い目覚めをとげた。


 教室は、照りつける太陽光に悲鳴をあげ、盆地特有の蒸し暑さに襲われている。


慎二は、自分が眠ってしまっていたことにゾッとしたが、板書に夢中になっている先生には、まだ気付かれずにいたらしい。


寝起きで頭が回らないものの、慎二は、黒板に書かれた内容を、急いで書き写すことにした。


 筆入れからボールペンを取り出しながら、黒板に視線を向けた。


 板書の内容からして、どうやら「秩父学」の授業中であるらしい。




2050年4月、埼玉県秩父市は市長選挙により新しい市長を迎え入れた。


新市長・神埼司朗のマニフェスト通り、秩父市は日本政府に対して、ある宣言をすることとなった。


これが後に、秩父学の教科書に載ることとなる「秩父独立宣言」である。


 この宣言は、2年もの間認められることが無かったが、神埼の熱心な献金や、秩父防衛軍の武力行使による訴えにより、2052年5月、秩父は独立国家として、日本からの独立を果たすこととなった。




 黒板を写し終わった慎二は、窓の外を見つめていた。


 「木戸!」


 突然の怒声にハッとし、慎二は声の方向に視線を移した。


 分厚いメガネの向こう側で、垂れた目を吊り上げた中年男がこちらに睨みをきかせている。


 「はい。何ですか?」


 悪びれた様子もなく答えた慎二に、先生の言葉が続く。


 「いいか。秩父学は大学受験の必須科目だぞ。さっきからボーっとしているようだがしっかり理解できているのか。」


 その言葉に嫌気のさした慎二は先生を一瞥し、黙り込んだ。


 「ただでさえお前の成績は芳しくないんだ。そんな態度だと大学進学どころか、卒業だって危ういぞ。」


 このやり取りは慎二だけでなく、クラスにいた全員に「秩父学」の存在を改めて印象付けた。


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