秩父市国
 独立以来、徐々に増えていった秩父市国特有の教科科目の一つである秩父学は、大学受験の試験科目となっている。この科目のできは、今後の進学に多大な打撃を与えてしまう。


 さらに、それだけで済むことはなく、この科目で低い評価を受けてしまった者は、今後の人生において、ろくな就職をすることもできず、国内において辛い生活を強いられることとなる。


 先生の言葉に怯んだ慎二は、危険を回避するため、一応の頷きを返し、形式上真面目に授業に加わった。



 しばらく経つと、授業終了を告げるチャイムの音が校舎中に鳴り響いた。


 慎二は自分の席を立ち、大きく息を吐いた。


 何気無く教室を見渡すと休み時間だというのに、クラスの生徒のほとんどが、席を立つことなく、「秩父学」の教科書を開いている。


 教室の雰囲気に呑まれるまいと、慎二は教室を後にして、トイレに向かった。



 高校三年生になってからというもの、慎二の周りの環境は一変した。


 誰もが皆、これからの人生を決定する秩父学をはじめとした「秩父教養科目」を恐れ、時間を惜しみ勉強に励んでいる。


 昨年の終わり、秩父市国は優秀な人材を獲得するため、日本で昔行われていた相対評価による成績評価を採用した。


 これにより、クラス40人の内、8人の生徒が人生を落ちこぼれることが、暗に決まることとなった。


 二年生の頃までは、まとまりがあり、活気に溢れていた慎二たちの学年も、新たな制度のもと、段々と人が変わっていったのである。


 クラスの全員が蹴落とすべき敵であり、いつの間にかクラスメイト同士が会話を交わすこともなくなっていた。




 トイレを済ませると、慎二は教室に急いだ。


 授業に遅刻することは、秩父市国民にとって、この上無い失態である。


 教室に戻ると、酷く荒れた息を整えながら、席に着いた。


 授業には、どうやら間に合ったらしい。


 時間割を確認すると、ため息が溢れる。


 次の授業、本日最後のその科目は「秩父弁」だった。

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